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訪日外国人旅行者向け、「OMAKASE」のオプショナルツアーに同行 「観光立国」を支えるベンチャー旅行会社のおもてなしに密着!! @東京都台東区谷中

2017年8月30日(水) 発信

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訪日外国人旅行者(インバウンド)向けにオプショナルツアーを提供する「OMAKASE」(運営会社=トリップデザイナー(坂元壮代表))の谷中(東京都台東区)をめぐるツアーに同行。インバウンド向けツアーの内実についてレポートする。(左から、通訳案内士でガイドの野澤雅春さん、Kevin Chaseyさん(56歳) 、Ben Chaseyさん(22歳)、William McGarveyさん(63歳)、Stephen McGarveyさん(24歳)。ツアー参加者はともに、米国からの旅行者で、各々が親子で、日本の旅を満喫中とのことだった)【謝 谷楓】

 

 2017年5月、訪日外国人旅行者(インバウンド)数は過去最速で1千万人を突破した。受入体制を充実させるため、2018年1月4日には改正通訳案内士法と改正旅行業法が施行される予定で、「観光立国」を目指した取り組みが加速している。訪日旅行者の呼び込みは、少子高齢化による国内人口の減少と、経済規模の縮小を補うためにも必要不可欠。訪日外国人旅行者の誘致は各地域、ひいては国内の消費増に直接寄与すると考えられており、自治体からホテル・旅館や観光施設、旅行会社といった民間事業者まで、熱い視線を注ぐ。

 一方、訪日外国人旅行者(インバウンド)をターゲットに据えたベンチャー企業の存在はあまり知られていない。ホテル・旅館や、土産店、旅行会社とは異なる、新しいビジネスモデルが確立しつつあり、増加するインバウンドに対応する、新たな受け皿として注目されている。

コンテンツ重視のベンチャー旅行会社「トリップデザイナー」

www.omakase-tour.com

 「手配をしているという意識はありません。地域ならではの体験など、日本特有の文化や歴史を感じられるコンテンツづくりを重視しているのです」と、2016年にトリップデザイナーを創業した坂元代表は語る。訪日外国人旅行者向けのオプショナルツアーを、自社サイト「OMAKASE」と現地旅行会社を通じて販売。最高のホスピタリティを提供し続けていると証しとして、TripAdvisor(牧野友衛日本代表)から「エクセレンス認証 Certificate of Excellence」を受けている。

 主なターゲットは欧米の富裕層や、イスラム圏からの旅行者。ターゲットの知りたい・訪れたい、隠れた日本の紹介に力を入れる。

オプショナルツアー「Yanaka Walking Tour」に同行!

 現在、60人ほどのガイドが登録する同社。定期的に研修を実施するなど、訪日外国人旅行者の視点に立ったガイドを実現できるよう、工夫を重ねる。海外で人気のガイドブックを下敷きに、SNS(交流サイト)やツアー参加者の反応を細かくチェックし、求められるツアーを模索。日々、コンテンツのブラッシュアップをはかっている。

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△行程について丁寧に説明するガイドの野澤さん(右から3人目)。参加者一人ひとりに目を配り、興味の度合いを推し量る。

 今回参加したオプショナルツアーの価格は日本円にして1人約9,000円。海外旅行会社を通じての販売でも、価格はほとんど変わらない。

 ガイドを務めるのは、通訳案内士でもある野澤雅春さん。イギリス駐在で培った流暢なブリティッシュイングリッシュで、ツアー開始前から参加者らと積極的にトークを交わす。「ともすると、一方的なレクチャーになりがち。参加者の性質を理解した上で、質問のしやすい環境づくりが何よりも大切だ」と教えてくれた。

 トークを通じ、興味の度合いを推し量る野澤さん。参加者一人ひとりが求めるガイドサービスを実現する下準備に勤しむ。

△今回巡るのは、東京・谷中エリア。下町とモダンな雰囲気が融合する場所で、国内での人気も高い。

谷中霊園からツアーがスタート

f:id:ryoko_shimbun:20170820110658j:plain△お盆などの日本の風習についても説明。 天皇の退位問題から日本での信仰事情など、話題は尽きない。中央、一番奥が、「OMAKASE」を運営するトリップデザイナー社の坂元代表。

 午前9:00に日暮里駅を出発した一行がまず向かったのは「谷中霊園」。徳川慶喜横山大観渋沢栄一日本ハリストス正教会創始者であるロシア人宣教師ニコライ(御茶ノ水にある「ニコライ堂」で有名)ら、著名人が多く眠る場所でも有名だ。

 歴史好きな日本人観光客ならば、「いざお墓めぐり!」をするものの、参加者らの目的は別にある模様。ガイド野澤さんとの会話に耳を傾けると、卒塔婆やお盆、欧米とは異なる信仰事情など、日本の文化風習をめぐって語り合っていた。

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△真剣な表情で聴き入るStephanさん(中央)。

 取材にも同行してくれた「OMAKASE」を運営するトリップデザイナー社の坂元代表は、「梵字の書いてある卒塔婆は、必ず質問される事項の1つ。お墓を通じ、お盆といった日本ならではの慣習を説明すると理解が深まります」と続けたうえで、「平生はもう少し早くまわることが多い。今回の参加者らは日本に対する関心が高いようです」と語る。

 ガイドの野澤さんは、墓碑の前文字や墓誌に記載されている内容について質問が挙がるたび、丁寧に解説をしていた。死者が眠る静かな霊園では、大きな声を出さずとも会話ができ、自然と落ち着いた気持ちになる。新宿や秋葉原といった大きな街での観光はすでに済ませたという参加者らにとって、谷中霊園をめぐる同ツアーは、娯楽とは一線を画す「知的な旅」となっているようだ。

 ツアー当日である「8月11日(金)」はお盆手前ということもあり、僧侶とともに供養で訪れる家族の姿も見受けられた。ガイド野澤さんの解説とともに、お墓参りのようすを見つめる一行が、しきりに頷いていたことが印象的だった。

護国山尊重院 天王寺から、徳川慶喜の墓まで

 鎌倉時代後期 (13世紀後半)の開創となる「護国山尊重院 天王寺」。静寂で、手入れの行き届いた境内には本尊「阿弥陀如来(坐像)」が鎮座する。

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△大人気だった記念撮影。

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△話に夢中な、KevinさんとBenさん親子。徳川慶喜の墓までは「鎖国」の話題で盛り上がった。

 日本ならではの静寂に身を置きリフレッシュした一行。続いて向かったのは谷中霊園を代表する「徳川慶喜墓所」。道中、谷中霊園で生活する猫とも遭遇し、思わず笑顔がこぼれる場面も。猫人気は万国共通なのかもしれない。

 ここでの話題は、江戸時代の「鎖国」。 ペリー来航など、開国へと続くの一連の歴史についても一行は、ガイドの野澤さんとともに意見を交わしていた。

 道中にあった「交番」の前で、思わず足をとめたのはWilliam McGarveyさん。海外と違い、地域住民との距離が近いことで有名な日本の警察。その象徴ともいえる「交番」は、警察が駐在する場所としてはあまりにも「厳つさ」に欠ける建物だと、Wiliamさんの目には映ったようだ。

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△思わぬ来訪者に顔を覗かせる。

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△交番と、指名手配の看板について説明するガイドの野澤さん(左から2人目)。地域に密着するオプショナルツアーならではの、シュールな一場面。左端で聴き入るのが、Williamさん。

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△「徳川慶喜の墓」手前。ここまででおよそ1時間半強。日暮里駅からは直線距離にして500㍍ほどのため、どれだけ話に花が咲いたかお分かりいただけるはずだ。

ショップ&スペース 「上野桜木あたり」

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△興味津々の一行。

 霊園を後にしたのは午前10:40ごろ。下町情緒溢れる住宅街を散策していると、「YANAKA BEER HALL 谷中ビアホール」で有名な「上野桜木あたり」に到着した。ビアホールの営業時間は午後4:00のため、残念ながらビールにはありつけられなかったものの、手作りパンのお店「Kayaba Bakery カヤバベーカリー」では焼き立てパンを頬張ることができた。

uenosakuragiatari.jp

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△何気ない水瓶が、独特のゆったりした雰囲気を醸し出す。

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△建物に目を瞠る。

下町風俗資料館付設展示場(旧吉田屋酒店)

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下町風俗資料館付設展示場(旧吉田屋酒店)外観。

 下町風俗資料館付設展示場こと「旧吉田屋酒店」は、かつて谷中6丁目にあった「吉田屋」の建物を現在地(上野桜木2丁目)に移築したもの。「吉田屋」は江戸時代から続く老舗で、建物は1910年(明治43年)に建てられた。出桁(だしげた)造(腕木より軒桁が張り出しているようすのこと)で、明治時代初期の商家建築を代表する造りとなっている。
 屋内には、秤・漏斗(じょうご)など、お酒に関わるさまざまな道具が並ぶ。巨大な一斗(約18㍑)瓶は珍しく、迫力に圧倒される。当時は、これら道具を使って量り売りをしていたとのこと。無料貸出の「半被」で記念写真を撮ることも可能だ。

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△一斗瓶のようす。常設されている模様。

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△酒造りについて解説するガイドの野澤さん。

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△谷中を代表する観光スポットである「カヤバ珈琲」。ツアー参加者とともに立ち寄って一服することもある。

小径を散策し、ヒマラヤ杉とみかどパン店に向かう

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△ヒマラヤ杉の前での1葉。向かって左にあるのが、みかどパン店。

 千代の富士像でも名高い玉林寺を経て一行は、下町ならではの小径を歩き、ヒマラヤ杉とみかどパン店を目指す。

 ヒマラヤ杉とみかどパン店。谷中を代表する観光スポットは隣同士で、みかどパン店の名物は「ヒマラヤスギクッキー」。両者の結びつきは深い。ヒマラヤ杉の樹齢は90年以上。高さは20㍍にも及ぶ。

 寺院が多い谷中は、先の戦争で空襲を免れた東京でも珍しいエリア。独特の雰囲気は、戦前から残る建物や寺院が多いことに依るところが大きい。東京の「原風景」ともいえるヒマラヤ杉とみかどパン店は、SNS(交流サイト)上でも有名な観光スポット。当日も多くの外国人旅行者で賑わっていた。

 「玉林寺とヒマラヤ杉・みかどパン店を結ぶ小径は、ツアーを実施するなかで見つけたもの。谷中の下町情緒を楽しむためにはもってこいの小径。このツアーオリジナルのコンテンツです」と強調する坂元代表。実際、ヒマラヤ杉周辺には多くの外国人旅行者がいたものの、歩いた小径で遭遇することはなかった。点と点を結ぶオリジナリティの高いストーリーづくりにも余念がない。

△「谷中のヒマラヤ杉」と「みかどパン店」よりも少し南(地図下側)に玉林寺があり、細い道で結ばれているのが分かる。

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△▽散策中に見つけた井戸は、今でも現役。

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根津神社から、ツアー終点である谷中銀座へ

 午前11:50、根津神社では境内を巡り、参拝を体験。伏見稲荷大社(京都伏見区深草)と見紛う根津神社の「千本鳥居」は近年、じわじわと人気を集める注目のスポット。手水舎に立ち寄って身を清めるといった、基本的な参拝スタイルをガイドの野澤さんから学びつつ、社殿のまえでは二礼二拍手一礼を実践した。

 多くの人で賑わう谷中銀座。到着したのは、午後12:20ほど。お土産購入など、お店に立ち寄るかと思いきや、買い物には消極的なようす。谷中霊園で、日本の慣習といった比較的「カタイ」話題が盛り上がったことが示すように、今回のツアー参加者らの主な目的は、日本のまち並みを通じた、日本の歴史や慣わしについて知見を深めることにあったようだ。これは、「OMAKASE」が主なターゲットとする欧米富裕層の特徴でもある。

 ツアー終了後、「参加者によって趣味嗜好はそれぞれ違う。今回の参加者2組は、年齢構成が似ていて嗜好も近しいため、やりやすかった部分もあった。例えば2組のうち、20代と60代というように歳の差が離れすぎている際には、話題だけでなく歩くスピードにも気を使う必要がある」と語ってくれたガイドの野澤さん。大変だが、そこをいかに調整し、参加者一人ひとりが満足できる「おもてなし」を実現できるかが、ガイドの腕の見せどころだと満面の笑みを見せてくれた。

 今ツアーへの同行を通じ「OMAKASE」が、訪日外国人旅行者(インバウンド)の視線に基づいた企画・対応を徹底していることを知ることができた。当たり前といえばそれまでだが、訪日外国人旅行者をターゲットに据えたビジネスで起業できることは、まさに「観光立国」の目指すところと言える。リアルエージェントとOTA(オンライン旅行会社)を含む旅行会社では、予約や手配に注力する傾向があるため、コンテンツ重視の「OMAKASE」は、それら大手との差別化も実現している。

 訪日外国人旅行者(インバウンド)数が2千万人を超えるなど、日々のニュースではどうしても大きな数字に目を向けがち。今後はぜひ、増加するインバウンドに対応する受け皿と、そこで展開されるビジネスについても注目してほしい。f:id:ryoko_shimbun:20170820124103j:plain

△表参道を進む一行。

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△手水舎にも立ち寄り、身を清める。

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△ 「千本鳥居」前での1葉。

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△▽谷中銀座では賑わう商店街を散策。ポストカードなど、お土産探しにも勤しむ。

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△最後は、「夕やけだんだん」で記念撮影。3時間あまりの小旅行はこれでおしまい。良き思い出となり、訪日旅行のリピーターとなってくれれば良い。